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第60回 「組織体質の成り立ちと、社員育成の必要性」(1)

パソナアジアカンパニーリミテッド 戸崎悦子

☆P商事(香港)営業所の経理部では、何年ぶりかで新入社員のエイダさん迎え入れました。このアイダさんは、職務知識、経験ともに充分している人材で、また、性格も明るく協調性があり、これからの☆P商事経理部の理想的な社員モデルとなってくれる人材であると、川崎経理部長は密かに期待して採用していました。川崎部長のそんな期待もよそに、エイダさんの直属の上司である入社歴18年目の経理マネージャー、リタさんから、アイダさんについて苦情が入ってきました。やはり、川崎部長が以前から気になっていた経理部の組織体質が、次代の社員育成を妨げる要因となっているのではないかと、今日もやっぱり頼りになる我らポイントさんに聞いてみることにしました。
ポイントさん
「川崎部長、リタさんとのミーティングでしたか?」
川崎経理部長
「ミーティングというか、リタさんがいろいろ一方的に苦情を並べましてね。私としては、とっても困ってしまいました・・・」
ポイントさん
「クールな部長が、そこまで困られるというのもめずらしいことですね」
川崎経理部長
「私は、数字には強いのですが、こういった人間関係というか、いざこざはどうも苦手です」
ポイントさん
「いざこざなんですね」
川崎経理部長
「と言いますか、今の私は、まさしくサンドイッチのハム状態とでも言いましょうか・・」
ポイントさん
「部長がハムでしたら、リタさんが、堅い黒パンといったところですね」
川崎経理部長
「おお、上手いことおっしゃいますね。ご存知のようにリタさんは、勤続18年、クラークからアシスタントマネージャーになるまで、この会社のたたき上げられてきた社員で、定年まであと5年。経理部では、まさしく黒パン的存在です」
ポイントさん
「でも、その黒パンさんが、ハムさんへ何の苦情を?」
川崎経理部長
「新入社員のアイダさんについてです。アイダさんは、もう直ぐ試用期間が終了します。それを機に、(1)リタさんの担当している経理の仕事全体をアイダさんに理解させてほしい、また、理解させた上で、(2)何か改善できる案がないか、二人で相談してほしい、そして、(3)リタさんの仕事の一部をアイダさんへ任せてみて欲しいという3つの課題についてです」
ポイントさん
「そんなハードな課題を出していらっしゃったんですね。リタさんは、そんなこと出来ない!と頑な断られませんでしたか?」
川崎経理部長
「(1)は素直に教えてくれています。まあ、最初から乗り気ではなかったのですが、あまりにしつこく私が繰り返すので、一応の説明はしてくれています。(2)は、最初から何も改善することなど有りません!と最初から言ってましたので、あまり進んでいないようです。ところが、アイダさんの試用期間が終わったら、仕事の一部を任せるという段になるからでしょうか?今日のリタさんの話は、アイダさんはおしゃべりが多く、経理として信用できないタイプではないかとか、人当たりがソフトなので、この部門には向かない、学歴は高いかもしれないが、経験が足りないとか、もう、否定的なことばかり言いまして・・」
ポイントさん
「そういうことでしたか。川崎部長も、とても思い切った課題を3つも出されていますからね、それぐらいの反撃は仕方ないでしょう」
川崎経理部長
「3つの課題は、私にとっても苦肉の策ですから。リタさんはがんばっているのですが、どうもマネージャーとして資質が欠けていると思います。社員を叱咤激励し、管理・育成するリーダーシップを持ち合わせていない。それに、自分で仕事を抱え込んでしまうタイプのようで、スタッフを信じて仕事を任せ切れないことも、次代のマネージャーが成長してこなかった原因だと思います」
ポイントさん
「アシスタントマネージャーに昇進したのは、リタさんがマネージャーの資質をかわれたわけではないでしょうね。勤続年数と仕事の担当範囲が功をなしたという結果ではありませんか?しかし、会社が昇進させていながら、今になってマネージャーの資質がないといわれても、本人にとってはちょっと・・・」
川崎経理部長
「それは、わかります。もちろん会社の責任です。でも、いまさら降格するわけにもいかないのが問題で・・・、私が赴任してきてからのこの3年間、ず~っと毎年人事考課のシートには、“スタッフの育成”という項目を与えてきました。部下指導をどのように具体的に進めるかと、幾度もリタさんと話し合ってきたのですが、いつも、自分の仕事が忙しく自信がないとか、マネージャーとして成長できるレベルの人材がいないとか・・いい訳ばかりでやる気を出してくれませんでした」
ポイントさん
「やる気を出せなかったのは、どう指導・育成していくべきかわからないということではないでしょうか?」
川崎経理部長
「わからない?!自分が今まで担当してきた仕事内容ですよ」
ポイントさん
「そうですが、リタさんも上司に教育してもらったりした経験があれば、自分も部下に対してどうしてあげれば良いか、見当はつくのではないでしょうか。しかし、リタさんのこの18年を振り返ってみたとき、上司から指示を受けることはあっても、指導や教育らしいことを受けたことがなかったのではないでしょうか
川崎経理部長
「フム~。そうだと思います。また、特に香港ではほとんどが中途採用ですから、日本のように新入社員教育などは必要ありませんからね。皆、多かれ少なかれ職務経験を持っていることから、改めて何か研修を行なうという必要を感じにくいのかもしれませんね」
ポイントさん
「しかし、放任主義は考え物です。できれば、会社は毎年計画性をもって社員研修を実施するべきです。会社の方針を定め、社員に具体的に示してあげるためにもです。例えば、顧客サービスの会社のスタンダードを定めて、社員にそれらを認識させ、また実践に活かしてもらいます。このことを繰り返し行なうことで、担当者のレベルに左右されないサービスの標準化が可能になります。これで、人に依存しないサービス水準を会社として提供できることになります
川崎経理部長
「それはそのとおりでしょうね」
ポイントさん
「中途採用の社員は、最低限のことは黙っていても対応してくれるということで、会社が放任主義になりがちかもしれませんが、それに甘んじていると、いつの間にか会社が定めていなくても、社員が自分都合のスタンダードを作ってしまい、社員の力関係が強い人のスタンダードが一番反映されて、さも会社で定めたように社内で標準化していきます。それが、ついには習慣として定着し、組織文化を形成してしまいます
川崎経理部長
「ああ、それは、そのまま今の経理部そのまんまの話ですね・・」
ポイントさん
「会社のスタンダードではなく、自分の作ったスタンダードで、今までリタさんが仕事をしてこられたとしたら、アイダさんを教育担当にさせることが、どうかとも思えますよ」
川崎経理部長
「なんだか、板前さんか職人さんのような話ですかね。仕事は、盗んで覚えろなんて、リタさん思っているかもしれないなあ・・」
ポイントさん
「いいえ、部長、リタさんは、職人さん以上に職人ですよ。自分の仕事は、絶対他人に盗ませないようにしています」
川崎経理部長
「ああ~、サイアク!」
ポイントさん
「また、このように会社の放任してきた環境で社員が育つと、社員の仕事は縦割りでなければ成り立ちません。だから縦割りに自分の担当範囲と責任範囲を決めてもらえさえすれば、それはそれで仕事は毎日回っていくのです。また、それは同時に、仕事を私有化していくことにもつながります」
川崎経理部長
「私有化?!」
ポイントさん
「簡単に言えば、仕事を自分流に片付けてしまうことを言っているのですが・・」
川崎経理部長
「ああ、なんだかもう恐ろしくなってきました!」
ポイントさん
「さて、また、サンドイッチの話にもどってもいいですか?黒パンとハムだけだったら、オープンサンドイッチで、なんとか食べられていたところですよね」
川崎経理部長
「そう、そのとおり、この3年間消化不良もありましたが、なんとかここまでは来ていたのですが」
ポイントさん
「ということは、サンドイッチのもう一枚のパンですが、やわらかく吸収力ある白パン、言いかえれば、アイダさんを加えることで、経理部というサンドイッチをおいしく、しっかり作る作戦が必要と言うことですね」
川崎経理部長
「そういうことです」
ポイントさん
「わかりました!次回もこのサンドイッチ作戦を続けさせてもらいましょう!」
川崎経理部長
「よろしくお願いします!」

・・・・・次号につづく・・・・

 

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