第57回 「香港第三世代のワーキングスタイル」 香港人のワーキングスタイル(10)
パソナアジアカンパニーリミテッド 戸崎悦子
☆P商事(香港)営業所の山田営業部長は、旧正月休みが明けて早々、営業部の現地社員と共に、上海営業所で開かれた営業会議に参加してきました。この会議で、一番気になったのは、香港の社員と中国営業所の社員のタイプが、同じ中国人と思えないほど違うことでした。今日は、香港の日系企業に慣れ親しんできた香港人社員、特に、社内でコア人材として活躍している香港人世代が、どのような環境の中で育ちそのワーキングスタイルを今に築いてきたか、今日もやっぱり頼りになる我らポイントさんに聞いてみることにしました。
- ポイントさん
- 「上海出張から戻られましたか、ご苦労様でした!」
- 山田営業部長
- 「春節ムード覚めやらぬ中国で、春節の宴会の凄い盛り上がりにびっくりしましたよ」
- ポイントさん
- 「上海でも、社員の乾杯攻めは凄かったのですか?」
- 山田営業部長
- 「僕が、すぐ調子に乗る性質だということを既に見抜かれていますから、気が遠くなるほど白酒で乾杯しましたよ。でも、それ以上に凄かったのは・・」
- ポイントさん
- 「白酒以上に凄いものっていうと・・・?」
- 山田営業部長
- 「上海営業所の社員たちの仕事に対する意欲ですよ!会議で積極的に発言していたのは上海組みで、香港からの社員は借りてきた猫のようでした」
- ポイントさん
- 「それは、意欲の問題ではなく、普通話での会議だったからではありませんか」
- 山田営業部長
- 「でも、香港の社員も、深圳や東ガンへの営業活動で毎日のように話してますよ」
- ポイントさん
- 「地方出身者の多い華南で話されている普通話と、華中以北ではやはり違いますからね」
- 山田営業部長
- 「また、香港の社員には、自信というものが感じられませんでした」
- ポイントさん
- 「そうですか?世相の問題があるかもしれませんね」
- 山田営業部長
- 「世相?」
- ポイントさん
- 「中国では、“八十後”ということがよく取りざたされていますが、ご存知ですか?」
- 山田営業部長
- 「なんですか?老後の話かなんかですか?」
- ポイントさん
- 「八十歳になってからどうしよう?って・・そうではありませんよ。実は、1980年以後に生まれた人々を総称している言葉です。それは、ちょうど、中国の一人っ子政策や経済的な開放路線を推し進めたころに中国に生まれた世代のことです。豊かになった親が、過保護にしすぎた子供の世代が、今成人を迎えているのです」
- 山田営業部長
- 「香港でも“八十後”はあるのですか?」
- ポイントさん
- 「政治や経済の背景が違う香港の“八十後”は、その意味が中国とはぜんぜん違っています。香港では、丁度、インターネット世代を示し、携帯やフェースブックなどで繋がった20歳代の若者が、政党に属することなく、独自にイベント運営感覚で政治的な運動に携わり、デモに参加したりしては、時に過激な行動となり社会的な問題や現象となってきている世相を示します」
- 山田営業部長
- 「へぇ~、これは、ぜんぜん違いますね」
- ポイントさん
- 「人材をより理解するには、このように、社員の大半を占める世相を反映する人材像をつかんでおくことが必要です」
- 山田営業部長
- 「なるほど。例えば、香港営業所では、設立当初からの社員は、40歳半ばになっています。平均年齢から言えば35歳ぐらいですか・・」
- ポイントさん
- 「60年代半ばから70年代半ばに生まれた人々ですね」
- 山田営業部長
- 「そうなりますか」
- ポイントさん
- 「それに比べると、上海事務所は若い方が多いようですね」
- 山田営業部長
- 「上海は、設立してから6年まだぐらいですし、ご存知のように社員の入れ替りが激しいので、社員の平均年齢は常に25から30歳前半ぐらいですよね」
- ポイントさん
- 「それこそ、こちらは70年半ばから80年前に生まれた、80前といった人々ですね」
- 山田営業部長
- 「そこなんですよ、香港の社員は、年齢も上で社歴も長い。先輩社員になるわけですから、もっと中国の営業部をリードするような発言をしてほしいと思っていたんです。社内には、健全な競争はつきものですから」
- ポイントさん
- 「香港の社員が、上海の社員とまともに競争をしようとは思わないでしょう」
- 山田営業部長
- 「そうなんですか??!」
- ポイントさん
- 「まず、香港事務所の皆さんの世相を考えてみましょう」
- 山田営業部長
- 「日本でも世相を代表するのは“団塊の世代”や“バブル世代”とかありますね」
- ポイントさん
- 「そうです。香港では、“四代香港人”というそうです。日本では、戦前・戦中派と呼ばれている世代を香港では、香港第一世代というように呼び、1946年から1965年生まれの戦後世相は、香港第二世代と呼ぶそうです」
- 山田営業部長
- 「それじゃあ、香港営業所の中心となっているのは、その次の香港第三世代ということですか?」
- ポイントさん
- 「そのとおり。1966年から75年に生まれた香港第三世代の皆さんが、ここの中心の組織ですね」
- 山田営業部長
- 「香港第三世代というのは、一体どんな世代なんでしょうね」
- ポイントさん
- 「彼らにとっても大きなターニングポイントとは、1997年ではないかと考えます。彼等が97年を何歳で迎えたかということですが・・・」
- 山田営業部長
- 「中国返還の年ですね。彼らは22歳から35歳ということですね」
- ポイントさん
- 「この世代は、90年代の右肩上がりの経済成長時、とってもバブリーな社会に出てきた世代なんですね。当時は、2~3年に一度は転職しないと人材としての能力が低いと思われるなどと言われており、転職しなかったとしても黙っていても10%以上の昇給が毎年のように期待できました。また、転職さえすれば、20%は昇給が見込めるといった黄金時代です」
- 山田営業部長
- 「ちょっと前の中国のような感じですかね」
- ポイントさん
- 「このような人材市場は、当時の移民ブームも相まって、市場から人材が不足していたことから起っていたので、人材は本当の競争力を身につけてはいませんでした。それは、その前の香港第二世代とは違います。辛抱も利かない、実力も足りない、しかし、好景気に煽られて、第三世代は豊かになりました。しかし、突然、97年10月には、香港第三世代の長い不幸が始まり、香港は急変してしまった。投資物件は半値になり、株価も下落。どんな仕事でも、働けるだけで幸せというような時代が到来しました」
- 山田営業部長
- 「そういう世代背景ですか」
- ポイントさん
- 「このように、香港のバブル前後の両極端な経験を持ち合わせた香港第三世代は、どのようなワーキングスタイルを構築してきたかと言うと・・・」
- 山田営業部長
- 「とても複雑ですね?」
- ポイントさん
- 「私もそう思います。常に職場には安定や保障を求めたいのだけれど、潜在的には、企業や将来を信じることができない。97年の実体験が一つのカルマとなって消えないわけでしょう。そこでどうしても、自己中心的且つ短期的な考え方に陥りやすく、刹那的な金銭感覚が根底にある。個人的には、結婚して家庭をもつことや子供を育てることにも否定的といわれます。今日の安定を求めながらも、転職のチャンスがあればと考え、しかしそれも長期的なスパンではないといった、とても複合的な仕事に対する考えではないでしょうか」
- 山田営業部長
- 「昨年、ウチでは、福利厚生などカットし引き締めたでしょう。そのときは、皆、よく我慢してくれ、辞職した人は一人もいませんでした。でも、これは、第三世代の心理を考えると忠誠心などというものではないのかもしれませんね。とっても不安な気持ちになってきます」
- ポイントさん
- 「不安になることはありません。少しぐらい香港で景気が上向いても、一般的には慌てて転職はしないと思います。でも、雇用の安定を脅かされていると感じていたり、また今後引き締めが続くようであれば、短期的な視野から転職するチャンスが出てくれば、敏感に反応する社員も出てくるかもしれません」
- 山田営業部長
- 「そういえば、丁度今回の上海会議で課題にしたのですが、営業成績アップを目指し、数値管理をきちんとする、しかし、コミッション制の色濃いサラリーパッケージを新たに導入したいと提案したのです。でも、香港は、元々の基本給が高すぎるので、このコミッション制を導入すると、一旦、香港の社員の基本給を低く設定し直すことになる。そこで、大変な抵抗にあってしまいました」
- ポイントさん
- 「香港の第三世代の心理を考えると、明日の1000ドルより、今日の100ドルではないでしょうか?企業や将来が信じられないという考えから抜け出せないとすればですが」
- 山田営業部長
- 「香港だけでも四世代あると聞くと、中国と香港を一緒に人事的に管理しようとすることは、至難の業ですね」
- ポイントさん
- 「やはり、人事も当面 “一国両制” かと思います」
- 山田営業部長
- 「なかなか簡単にはいきませんね」
- ポイントさん
- 「そうでした!山田部長、遅ればせながら、これ、息子さんへのお年玉です!!」
- 山田営業部長
- 「どうも、ありがとうございます!縁起ものなので遠慮なく頂戴します!でも、ウチは一人息子だってこと、ポイントさんはご存知でしたよね。お年玉が二袋もありますよ?」
- ポイントさん
- 「香港のお年玉は、広東式ですから、夫婦で合わせて二袋がセットであげます。でも、それこそ、そんな風習は、同じ中国でも、他の地方には無いかもしれませんけれど」
- 山田営業部長
- 「そうでしたか!それは、まさしく、これが、今日のお話しの“落ち”ですね。ところ変ればお年玉のあげ方も変る・・・やっぱ、ポイントさんは奥深い~!」
- ポイントさん
- 「いやあ・・たった数十ドルのお年玉で、そこまで奥深い“落ち”を考えていたわけじゃないんですけど・・・まぁ、新年早々“落ち”っていうのもなんですから、お年玉にちなんで 奥深い“上げ!” ということにしておきましょう!」
参考文献:「四代香港人」呂大楽 著 (進一歩多媒体有限公司)
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[ 時事速報・香港第2便より転載 ]
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