第56回 「香港式仕事の与え方」 香港人のワーキングスタイル(9)
パソナアジアカンパニーリミテッド 戸崎悦子
☆P商事(香港)営業所の山田営業部長は、本社から出張者が来港した時には、必ず事務所の近くのレストランで飲茶をすることにしています。そして、着任当時から学習してきた広東語がレストランで上手く通じるかどうか実践してみようと、密かに考えていた山田部長でしたが、どうも、広東語を母国語としないウエイトレスも多く働いているようです。今日は、香港の現地社員に合った「仕事の与え方」について、やっぱり頼りになる我らポイントさんに聞いてみることにしました。
- ポイントさん
- 「飲茶のランチはいかがでしたか?」
- 山田営業部長
- 「まあ、ここの近くのレストランですからねえ・・気が利いたレストランではないですが、安くて、おいしいので、出張者の川口君もとっても喜んでくれました。でも、今日は、二人だけでしたので、ちょっと困ったことがありまして・・・」
- ポイントさん
- 「二人で飲茶となると、それは、お困りでしょうね。点心をいろいろ注文したくてもできないからでしょう」
- 山田営業部長
- 「いやいや、点心の注文のことなんかじゃないんです。僕の広東語が上手く通じなくて・・」
- ポイントさん
- 「でも、社内では、山田部長の広東語の上達ぶりが目覚しいと評判ですよね。特にレストランとタクシー用語は完璧だと言う評判も聞きましたよ」
- 山田営業部長
- 「そうでしょ!僕も自信が出てきていたところだったので、川口君と二人で行っても大丈夫だと思っていたのですが」
- ポイントさん
- 「広東語のレストラン必須用語集を自分でまとめておられたのでは?」
- 山田営業部長
- 「あっ?それもバレちゃってるんですね。そうなんですよ、実は今日もそのアンチョコを片手に、料理を運んできたウエイトレスさんに“急須にお湯を入れて欲しい”と頼んだのですが、とても迷惑そうな顔をして、違う、違うって手を振ってキッチンへさっさと戻っていってしまいました」
- ポイントさん
- 「は、はぁ~ん」
- 山田営業部長
- 「また、隣で川口君が、とても頼りなさげに見つめているものだから、僕もあせりましてね。すぐさま隣のテーブルに料理を運んできた別のウエイトレスに、同じ内容を話したのですが、今度は、完全に無視されてしまいました」
- ポイントさん
- 「それじゃ、ゆったりお茶を楽しむことが飲茶なのに、それどころではありませんでしたね。でも、ちょっと、気がつきませんでしたか?レストランのウエイトレスさんの中には、広東語を話さない人たちが結構多いのですよ」
- 山田営業部長
- 「えっ?!広東語を話さない?香港のレストランでは、きめ細かいサービスを期待していませんが、急須にお湯を入れてほしいというぐらいの広東語も通じないウエイトレスを雇っていて、よく接客ができるものですかね!?」
- ポイントさん
- 「あの、そのウエイトレスは、接客はしませんから」
- 山田営業部長
- 「はっ?」
- ポイントさん
- 「あの・・ですから、山田部長が今日話しかけられたウエイトレスは二人とも、料理をテーブルまで運んでいたということでしたね」
- 山田営業部長
- 「はい、その通りですが」
- ポイントさん
- 「この二人は、“料理を運ぶ”または“出した皿を下げる”という仕事を与えられているだけです。お茶を注いだり、注文を聞いたりする接客担当ウエイトレスではありません」
- 山田営業部長
- 「えっ?」
- ポイントさん
- 「広東語ができない人でも、キッチンで出来上がった料理の皿に張られた紙にあるテーブル番号を見れば、どこのテーブルまで運ぶかということは判りますね。その部分だけの仕事を与えられており、その他の仕事は担当に任せます」
- 山田営業部長
- 「はぁ~っ?」
- ポイントさん
- 「与えられた仕事は、料理をテーブルの脇まで運んでくるだけなので、料理をテーブルの上に載せることにさえ、彼女たちは係わりません」
- 山田営業部長
- 「そういえば、料理を運んできても、なかなかテーブルに載せてくれないことがありますね。もう一人のウエイトレスが、テーブルにのせに来るまで、ただひたすら待っていることがありますが、それも分担されているからですね」
- ポイントさん
- 「そうです。仕事の与え方や仕事の範囲がここまではっきりしているのは極端な例ですが、それにしても、香港の社員は“言われたことしかしない”と愚痴られることを耳にしますが、仕事によっては、言われていないことまでしてしまうことは、仕事の分担を乱すことになるわけです」
- 山田営業部長
- 「この香港式と対極にあるのは、日本の深夜のファミレスじゃないですかね?一人のウエイトレスが、受付からレジ処理まで全ての仕事の流れを一人で担当していますね」
- ポイントさん
- 「ほんとうですね」
- 山田営業部長
- 「香港では、このファミレス方式ではダメですか?
- ポイントさん
- 「一人のウエイトレスに分担させる仕事の内容が、このように多岐に渡るのは、日本のように市場の労働力の質や程度がある程度一定で、類似していることが前提でしょう。しかし、香港では、人材のバックグランドが様々なので同じようには行きません。また、社員の転職は付き物としますから、仕事の全ての流れをたった一人の社員に任せ切って完結してしまっては、よほどマニュアル化できる仕事でない限り、会社のリスクも伴います」
- 山田営業部長
- 「そういうことですね。ちょっと☆P商事の営業部での仕事の与え方についても考えさせられますね」
- ポイントさん
- 「社員が一番苦手なのは、漠然とした仕事の任され方でしょう」
- 山田営業部長
- 「そういうことでしょうね。これはどうなっているの?と社員に聞くと、そんなこと聞いていないから知らないとか、自分の担当責任はないからわからないとか、言われることがありますから」
- ポイントさん
- 「指示を出すときには、誰が、いつまでに、何を、どのようにするのか?という点を明確にして、仕事の範囲や責任を示されるよう工夫されれば、職務範囲がきちんと定められることにつながり、社員に安心して仕事に取り組んでもらえます」
- 山田営業部長
- 「安心してと言われるのは?」
- ポイントさん
- 「社員は、自分と他の社員の仕事の範囲に境界線をはっきりつけています。社員が気にするのは、他の社員の職務範囲に入り込んでしまうことです」
- 山田営業部長
- 「ほう~。自発的にお互い意見を言い合おう、自分の仕事が終わったら他の社員を助けるようにしよう、チームワーク重視とか社員に言っても難しいでしょうね」
- ポイントさん
- 「確かになかなか難しいでしょう。社員同士は、境界線をあえて越えるようなことはなるべく回避したいですから」
- 山田営業部長
- 「フ~ム・・、今日は、ひょんなことから勉強させてもらいましたよ」
- ポイントさん
- 「たまには飲茶に行かれるのも良いですね!」
- 山田営業部長
- 「今後、社員へ仕事を与えるときには、できるだけ明確に与えるようにしたいと思います」
- ポイントさん
- 「飲茶だけに、お茶を濁すようなことはしないように、お願いしますね!」
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- Unit 01, 12A/F., One Peking,1 PekingRoad, TsimShaTsui., KLN., H.K.
[ 時事速報・香港第2便より転載 ]
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