第52回 「転職する人、しない人」香港ワーキングスタイル(5)
パソナアジアカンパニーリミテッド 戸崎悦子
☆P商事(香港)営業所の佐藤総経理は、リーマンショックからのこの1年を振り返ってみると、悪いことばかりではなかったかも知れないと考えています。それは、この一年、社員が一丸となって節約、倹約、無駄を無くすことに努力したことや、特に人件費を抑える為に様々な人事的方策を実施してきた中、社員の誰も辞職せず辛抱してくれたからです。しかし、このところの香港の労働市場は、少し変化が現れてきた様子。そこで今日もやっぱり頼りになる我らポイントさんに香港の転職現状について聞いてみることにしました。
- 佐藤総経理
- 「早いもので・・・あれからもう一年になりますね、ポイントさん」
- ポイントさん
- 「正しく光陰矢の如し・・ですね。でも、それにしても、どうしてあれから一年たったことを佐藤総経理までが憶えていらっしゃるのですか?!」
- 佐藤総経理
- 「そりゃ、誰だって憶えているでしょう!こんなに世界中に連動してしまったことなのだから・・」
- ポイントさん
- 「世界中に連動・・・?って、まあ、確かに山田部長もこのことをしっかり憶えておられ、さっきもさんざん言われましたよ・・。でも、それにしても、丁度去年の今日は私の奥さんの誕生日だったというのに、この私が、彼女の勤務先へ送るはずの花束の手配をすっかり忘れてしまい、昼休みにアタフタしていたことなどをどうして総経理までが憶えていらっしゃるんでしょう?」
- 佐藤総経理
- 「あのう・・・悪いけどポイントさん、そんなこと全く知らないばかりか、どう考えても世界に連動しないよ!私が言っているのは、リーマン!リーマンショックから1年以上になるんだなあ・・ってこと!」
- ポイントさん
- 「ああ、リーマンショック・・・世界中に連動した・・・そうですね、この1年間、本当に☆P商事もいろいろ大変でしたね」
- 佐藤総経理
- 「コスト削減が絶対条件でスタートしたから。できることは何でもやってきましたね。ポイントさんにも人事的にいろいろ相談にのってもらい苦心させました」
- ポイントさん
- 「残業の規制、通勤手当の廃止、ダブルペイの廃止、出張手当の見直し、昇給据え置き・・・と、いろいろ考えましたね」
- 佐藤総経理
- 「いままで支給してきた人件費も減らさなければチョイスが無い状況でしたから、いろいろ踏み切らせてもらいました」
- ポイントさん
- 「既に支給されている手当てなどを変更されたい場合には、会社側からの一方的な通知では、社員にとっては『推定解雇』と解釈されるケースにつながる・・ということでしたね。会社側にも死活問題ですが、それは、社員にとっても現在の収入が減少するという極めて現実的な問題となりますから、必ずその変更内容を書面にまとめ、社員に理解してもらえるよう説明し、社員の同意を得て署名してもらうなど、きちんとした記録とともに理解してもらうための会社側の努力のステップを踏む必要がありました」
- 佐藤総経理
- 「社員にも苦労を強いたことになったけれど、☆P商事としては、社員の基本給減給や人員削減は回避できた、なんとか死守できたっていうところでした。でも、もう少し売り上げの落ち込みが長引いていたら、それもどうなるかわからなかったところです」
- ポイントさん
- 「でも、それにしても、地元企業では、昨年内から対策を打ちましたね。去年の11月ごろには既に、リストラに踏み切っている大手企業が次々と報道されていました。また、直接的な人員削減でなくても、ワークシェアリングなどで、無給休暇を取らせることで実質的にはベースカットを実施した企業もあったわけですから」
- 佐藤総経理
- 「即効性は必要なときもあるが、その判断は、正直できなかったですね」
- ポイントさん
- 「それは、一般的に欧米系に近い地元大手の判断と香港の日系企業には、やはり、隔たりがあります。今年の春、新年度が始まったころから、リストラに踏み切ったり、中国へのシフトを一気に速めた日系企業が多かったように思います」
- 佐藤総経理
- 「しかし、ウチの社員も良く我慢してくれたよ。誰もこの1年辞めなかった」
- ポイントさん
- 「そうですね。しかし、我慢はいつか限界を迎えます」
- 佐藤総経理
- 「・・・ということは?」
- ポイントさん
- 「今年も夏の終わりの頃からは、じわじわと労働市場に動きが出始めてきているように思われます」
- 佐藤総経理
- 「どういうことですか・・・転職を繰り返しキャリアアップする香港の人というイメージは既に今や昔なのではないのかな?まだまだこの不況下でしょ。チャンスが転がっているとは思えない」
- ポイントさん
- 「大手企業では、昨年のリーマンショック後直ぐに、リストラを推進していたといいましたが、この体制では、景気の戻りを受けると今度は人手不足が直ぐ生じ、採用枠を広げるという逆の動きに転じることになります」
- 佐藤総経理
- 「うん・・」
- ポイントさん
- 「中小企業においても、同じことが言えますね。一旦人員減少していれば、ぎりぎりで仕事を回している状態。これもビジネスが戻ってくると、同じように採用する必要が出てくることになります。このように一つ一つ椅子取りゲームの椅子が出てきているのが現在の状態。その椅子に対して人が動き始めることから、いつかは、人が一巡するように、労働市場に空きが出てきているとでも説明すればお解りいただけますか」
- 佐藤総経理
- 「なるほど・・・」
- ポイントさん
- 「そこで、いつまでも社員に我慢させてばかりでない工夫・・・と言うのでしょうか、または、せめて、これ以上は締め付けないことが必要となってきます」
- 佐藤総経理
- 「社員に我慢のみを強いてきた会社には、これからツケが回ってくる・・?」
- ポイントさん
- 「実力のある社員であればあるほど、また、☆P商事で足りない人材層であればあるほど、競合他社の状況と同じ・・といった“ミラー傾向”が高まることでしょう」
- 佐藤総経理
- 「いずこも同じ・・」
- ポイントさん
- 「また、転職しようと決めたら、先も比較的直ぐに決まっていくことでしょう。それは、現職での人件費などが、市場価値より抑えられていることから、転職先に対する金銭的なハードルが自然と下がってきていたり、転職することによる“給与アップ”よりも“会社の安定”や“仕事の中身”に重きを置いて転職するという人材の傾向があるからです」
- 佐藤総経理
- 「ハア・・、転職でベースアップばかりを目指しているのではない・・・環境によって、人材は変るものですねぇ」
- ポイントさん
- 「そのとおり。人材の傾向が変るということでしたら、97年からの続く経済状況下、香港の人材の転職意識が、既に変化してきていたこともその下地となっています」
- 佐藤総経理
- 「この1年、我が社では、会社の方針を充分社員に説明しており、理解を得て進めた人事方策ですよね。同じ我慢でも理解されたものですから、まだまだ経済的に不安定なこの時期でもあるし、ここまで我慢したのだから、いまさら転職に踏み切る社員は少ないのではないでしょうか?」
- ポイントさん
- 「それには、ここからが大切です。今後は、企業、人件費という固定支出を膨らませないことを経営者は継続して追求していきながらも、社員の努力を還元してあげられるような報酬制度を再構築することが必要となってきますから」
- 佐藤総経理
- 「ああ、難しい話になってきましたね。今日の相談はこれぐらいにして・・・ところで、今年こそは、奥さんへのお祝いの手配に抜かりはないんでしょうね?丁度一年・・ってことは、今日がまさに奥さんの誕生日ということでしょう?」
- ポイントさん
- 「ええ、それはそうなんですが・・・今年は、リーマン後なので花束の必要は無いと言われまして・・・」
- 佐藤総経理
- 「・・・???」
- ポイントさん
- 「いやあ・・・私の奥さんですが、ご存知のように米系大手金融の香港法人で、バリバリエリート・・だったのですが、まさにリーマンショック後、直ぐにリストラされ、今は大学院に入り直してMBAの勉強始めているんです」
- 佐藤総経理
- 「そうでしたか・・・でも、奥さんの誕生日には変りないんだから、家にお花を届けるぐらい気を遣ってあげた方がいいんじゃないの?」
- ポイントさん
- 「いやあ、家に届けても同僚が見ているわけではないので、花束を受取る意味が無いとか言われまして・・・」
- 佐藤総経理
- 「・・・・・」
- ポイントさん
- 「まあ、これもリーマンショック後の香港独自の消費動向とでも言えますでしょうか・・・」
- 佐藤総経理
- 「確かに!!ホントいつも勉強になるよ、ポイントさん!!」
ポイントさんへの人事管理のお問い合わせは、下記メールアドレスやお電話までお気軽にお寄せください。
- パソナアジアカンパニーリミティッド/人事労務(HRM)アドバイザリーサービス部
- TEL: 852-2882-3484, E-mail : hrmhk@pasona.com.hk
- Unit 01, 12A/F., One Peking,1 PekingRoad, TsimShaTsui., KLN., H.K.
[ 時事速報・香港第2便より転載 ]
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